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それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2

黄金の光

黄金の光

「そんなばかな!」 しかし、俺の頬を伝うものが、それが真実であることを教えていた。

礼子は、自分の言ったことがちゃんと伝わったかを確かめるように俺の目を見ていたが、やがて静かに話し出した。

「...ハリーさん、これから、あの悲しい出来事が起こった時に戻って、あの場所で傷ついた人全員を癒します。
...起こってしまった出来事は変えられませんが、そうすることで、あの時傷ついた人たち全員を助けることができるんです。過去の出来事を癒すことで、今の人たちにも違いを作ることができるんです。

...やっていただけますか?ハリーさん自身と、そしてあの時傷ついた人たち全員のために...」


俺はうなずいた。

「ありがとう、ハリーさん。」

礼子は、俺をパーティションの奥の簡易ベッドに導きながら言った。

「...ハリーさんも倫子さんも、きっとガッツのある魂なんだと思いますよ。何しろどちらの出来事も変革の数字の時に起きた事ですから。二人ともすごい勇気の持ち主なんですね。」

俺は、なんだか分からなかったが、腹が座った感じがした。やってやる、という感じだった。

礼子は、ベッドに横になっている俺の脇に座り、俺の胸のところに軽く手を置き、父親が蒸発する前日の、両親が口論になった場面をイメージするよう誘導した。

「ご両親はなぜ口論になってしまったのでしょう?あの時ご両親には何が足りなかったと思いますか?直感を信じて答えてみてください。」

「...本当は二人とも不安だったんだと思う。将来どうして行ったらいいか見えなかったんじゃないかな?」

「では何があったらよかったのでしょうか?何が足りなかったんでしょう?」

...俺はちょっと考えて、頭に浮かんだ言葉を伝えた。

「...潤い」

「ではそれをご両親にあげてください。ハリーさんはそれを持って生まれてきているんですよ。」

...俺はお袋と、顔をあまり思い出せない父親にプレゼントした。イメージの中で、父親とお袋は潤い、俺たちは家族の絆を取り戻した感じがした。
俺たちはハグして、泣いた。

礼子は、今度は、倫子が亡くなったあの時に俺を誘導し、同じ質問をした。

...俺はまたちょっと考えて、頭に浮かんだことを言った。

「...人生の目的」

「...それこそが、倫子さんがハリーさんと珠代さんにプレゼントするために持ってきたものだったんです。受け取ってあげてください。」

...ありありと倫子の笑顔が頭に浮かんだ。俺と珠代は、満面の笑顔の倫子から、倫子が持ってきてくれたプレゼントを受け取り、イメージの中で、俺たちはハグして、泣いた。
プレゼントを受け取った俺の体は金色に光り輝き、あの時傷付き失われた心の一部が蘇る感じがした。
金色の光は、俺を捨てていなくなった父親、本当のことを話してくれなかったお袋、そして元妻の珠代にも広がり、傷が修繕され、失われた絆が蘇っていった。
あの時傷を負った人全てが、あの時皆自分のベストを尽くしたのだという事が理解できた。

プレゼントを渡した倫子は、うれしそうに何度も礼を言うと、光の中に次第に吸い込まれていった。

...そして、あたりは真っ暗になった。

俺は、暗闇の中で嗚咽した。深い癒しは、俺がすぐに起きあがることを拒んでた。

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