http://kinen.yumenogotoshi.com/

それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2

暗転

暗転

俺は、気持ちが荒れていた。ずっとこのままだったらどうしようと不安になる。俺が何をしたと、天に向かって文句を言いたくなる。
胸に手を当てて思い当たる節がないではないが、ここまでの罰を受けるようなことはしてないぞ、と。

俺はなじみのバー・アルカンシェルで一人落ち込んでいた。既に相当量を飲んでいるものの、酔えないし、第一味がしないのだ。
俺は立て続けに強い酒を注文した。普段はまず飲まない、原液みたいなヤツだ。だが、どれも皆同じで、渇きを癒してくれるものなどどこにもなかった。

「...味気ない。」

悲しくなった。何もかもが嫌になっていた。

俺はポケットからタバコを取り出し、煙を深く吸い込んだ。タバコすらもなんだか味がしない。
静かに昇る煙を見ながら、俺は途方に暮れていた。

反対側のテーブルで飲んでいる女性二人組がさっきからこちらをちらちらと伺っているのだが、声をかける気にもなれない。
普段なら千載一隅のチャンスとばかり飛び出していくところが、やる気がまったく出ない。

「俺はいったいどうしちまったんだ。」
が、考える気力すら萎えてしまったように、意識を集中することすら億劫になっていた。

と、部屋が急に暗くなってきた。何か始まるのかと思ったのだが、やや遅れて異変に気付いた。
誰も、暗くなったことを気にしていないのだ。照明の方を見るでもなくなんら変わらずに酒を飲んでいる。

するとどこからか誰かの怒鳴る声が聞こえてきた。声の主は見えないが、最初は小さかったその声は次第に大きく、そして増えて行った。

あぁ、これはいつもの夢の続きなんだと気が付いた。

ただ、いつもと違うのは、場面がアルカンシェルのままで、俺は今の年齢のままであることだ。

怒声はいよいよ大きくなって、まるで大きなうねりのように頭の中に響いた。爆音のような怒鳴り声が響く中で、次第に頭がクラクラしてきた。目を開けていられない。俺は気を失いかけていた。

「...死ぬのか。」

ふっと浮かんだ言葉が頭の中で繰り返されていた。しかし「死」という言葉すら、まるでリアリティが無かった。

...全てがおぼろげであった。生きている意味すら失いかけていた。

「そっちへ行ってはだめ!」

失いかけた意識の中で、何故かその声は怒声の渦にかき消されることなく頭に響いた。

「誰だ...」
俺は薄れゆく意識の中で、光を見た気がした。

ページの先頭へ