http://kinen.yumenogotoshi.com/

それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2

真実

真実

「...ある心理学によれば」

俺の夢の話を聞いた礼子は、軽く目を閉じて何かを考えているようだったが、例の瞳で覗き込むように俺を見て、言った。

「5という数字は、変革という意味を象徴しているんです。倫子さんが亡くなったのが5歳。それから、夢の中のハリーさんも、確か5歳くらいでしたね。
潜在意識・無意識の世界では、不思議なんですが、偶然の一致というのがよく起こります。
...ハリーさん、前回のカウンセリングでは聞きませんでしたが、ハリーさんの5歳の時に何かありませんでしたか?」


俺は思わず、あっ、と声が漏れた。どうして忘れていたのだろう。

実は俺の父親は、俺が5歳の時行方不明になったのだ。
父親が行方不明になる前日、父親とお袋はひどい口論になったのだ。あまりにひどい喧嘩で、俺も子供ながらに泣きながら止めに入ったのだが、逆に巻き込まれ、吹っ飛ばされて気を失った。父親は次の日ふらっと外出したっきり、帰ってこなかった。
お袋は喧嘩の理由を教えてくれなかったが、親戚の叔父さんが、こっそり教えてくれた。女性問題だったらしいが、叔父さんもそれ以上ははっきり言わなかった。

礼子は、驚くというより、やっぱりという顔をしていた。

「...最初の夢は、珠代さんとの事に責任を感じているということでしょう。
そして大事なポイントは、靴が無くなる所です。これは、何かが連鎖的に繰り返されているということを暗示しています。
2日目3日目の夢のポイントは、ハリーさん自身が責めている人であり責められている人だということ、そして周りに何人も倒れているというのは、同じ境遇の人がまだいる、ということでしょう。」


「...倫子さんは、ハリーさんと珠代さんの喧嘩を止めようとして亡くなりました。
ハリーさんもご両親の喧嘩を止めようとして、反対に気を失いました。...これ、繰り返されていますよね。
靴が無くなる夢は、このことを言いたかったのではないでしょうか?」


礼子は続けた。

「...そして夢の中の怒声は、ハリーさんと珠代さんの口論であり、またハリーさんのご両親の口論なのでしょう。子供にとって親の喧嘩している姿というのは、本当に悲しくて傷つくんだそうです。

ある心理学では、子供っていうのは、親がその時どんな状況にあっても、親を助けたいと思って生まれてくるのだそうです。
でも親を助けられなかった時、親の喧嘩を止められなかった時、その子がどんな風になるか知っていますか?
ものすごく傷つくんです。親を助けられなかった自分に自信をなくしたり、自分を責めたり、道を失ってしまったりします。

ハリーさんも倫子さんも、本当は両親を助けたいと思って生まれてきたんです。でも助けられなかった。
...夢の中で、周りに倒れていた同じくらいの背格好の子供とは、親を助けられず傷つき希望を失ったハリーさん自身であり、倫子さんであり、そしてひょっとしたら、ハリーさんのご両親も、子供の頃に同じ体験をしたんだと思います。

世代を超えて繰り返されている出来事は、家族の持つパターンとなって、何代にも渡って同じことが引き継がれ、繰返されます。

ハリーさんの夢は、この世代を超えて繰り返されている出来事を今こそ終わらせるために、無意識から送り出されているメッセージだったのではないでしょうか。」

ページの先頭へ