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それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2
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探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2

兆候(ちょうこう)

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...

実は、俺はどうもスランプになったようだ。この間大家の子供と花やしきに行ったあたりから、どうも調子が悪い。
スランプといっても、仕事は切れずに続いていて、少なくとも事務所を閉鎖しなきゃならないようなことはない。

...実は最近眠れない。正確には、眠っているのだが疲れが取れないのだ。

原因は、二日に一度は見る、ある夢のせいなのだ。
普段夢など見たことの無い俺だが、繰返し繰返し同じ夢を見るのだ。しかも決まった所で目が覚める。
真っ暗な部屋の中で目を見開き、少し荒い呼吸音に嫌な汗...ここのところ目覚めはずっとこんな調子なのだ。

医者嫌いの俺も、さすがに必要に迫られて診てもらったが、「ただの疲れすぎ」と、軽い睡眠薬が出ただけだった。
しかし、睡眠薬を飲んでも、一向に改善されない。そうこうしているうちに、今度は味覚がおかしくなってきた。

味が、しないのだ。何を食べても、まるで紙でも食べてるように味がしない。これはさすがに困った。

すぐに総合病院で全身検査をしてもらったものの、肝臓のガンマなんとか値がちょっと高いとか免疫機能が少し低下しているぐらいで、主たる原因がわからず医者も首をかしげていた。

「●●症か、○○症の疑いがあります。心因性のものかも...」

担当の医者は難しいカタカナの病名を並べたてた。が、「〜症」というのは、要は症状・状況のことで、病気の原因を指している訳ではない。
例えるなら、「あなたは血圧が高い」と言っているだけで、なぜ血圧が高いのか、その理由を突き止めているわけではないのだ。

医者にも原因がわからないのだ。しかも心因性とは...俺もヤキが回ったか。

その夢というのは、思い出すだけでも気分が悪くなる。

夢の中で俺は、5歳くらいの子供になっていて、乾いた土の上に横になっている。体を起こそうと四つんばいになると、どこからともなく、誰かの怒った声がする。
その声はだんだん大きく、そして怒っている人もどんどん増えて、最後には何千何万の人々が各々周りで怒声を上げるのだ。

なんと言っているのかはわからないし、怒っている人の顔は一切見えないのだが、身振り手振りから、その声が全て自分に向けられているというのはわかる。
怒れる声がどんどん大きくなり、やがてあまりの声の大きさに耐えきれず失神したところで目が覚めるのだ。

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