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それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常 Part2

理解

理解

「ハリーさん、苦しい胸の内を話してくれてありがとう。」

礼子は続けた。

「珠代さんに対しては、今どんな気持ちですか?その、恨んでいますか?」
俺は、頷いた。おかしな考えだが、倫子が死んだのは珠代のせいだという気がした。

「その気持ちわかりますよ。
ただ、珠代さんもきっとこのことを悔いているだろう、ということは理解できますか?
あの時深く傷ついたのは、ハリーさんだけじゃなく珠代さんも、だった事...珠代さんも家族を失ったんです。」


俺は、うなだれたまま、肯定も否定もしなかった。頭では理解できても珠代を心から許す気持ちになれなかった。

「...それからもう一つ。
あの時、事故が起きたあの時、おそらく倫子さんは、体を張って二人の喧嘩を止めようとしたんじゃないかと思います。
大好きなパパとママの喧嘩を止めるためだったら、命すら捧げる覚悟で...」


俺はびっくりした。

「そして、もし魂や霊があるとしたら、今のハリーさんたちを見て倫子さんはどんな気持ちだと思いますか?
大好きなパパとママが、お互い恨んでいる今の状況は...」


「...珠代さんのことを許してあげてください。そうしないと命をかけた倫子さんの行動も救われません。」

俺はうなだれたまま、うなずいた。

礼子は、目をつぶってこれから自分の言った言葉を心の中で繰り返すように言った。

「...私は珠代さんと倫子さん、そして自分自身を許します。」

礼子はゆっくりと3回言い、俺も心の中で3回唱えた。

カタルシスが起こり、閉じた目からは涙が流れた。

礼子は、俺が落ち着くのを待ってから、静かに話し出した。

「ハリーさん、これから私が質問をしますから、考えず直観的に答えてください。いいですか?」

俺はうなずいた。

「1ですか、2ですか?」

「...2」

それを聞いた礼子は、深く息を吐いた。一呼吸置いて、礼子は言った。

「わかりました。
疲れたでしょう。今日はこのへんにしましょう。」


「それから、次に来るまで、やって欲しいことがあります。効果がありますから是非やってみてください。」

礼子の出した宿題は、一つは毎日1度以上、さっき言った台詞を心の中で唱えること、もう一つは、夢を見たら忘れないように何かに書きとめること、の2つだ。

「夢、というのは、私たちの意識と、意識できない部分とをつなぐ窓のようなものなんです。」
礼子はちらっと、例の氷山の絵の方を見た。

「宿題を忘れないで下さいね。
今回のことがうまく癒せたら、多分もうタバコを吸う必要もなくなるかも知れませんよ。
心理学的には、タバコを吸うのは自分の感情と向き合うことを恐れている、という説があります。実際私のカウンセリングを受けた人は、何故か皆タバコを止めるんですよ。しかも楽に。」


部屋を出たら吸おうと思っていた心を見透かされたようで、俺は少しバツが悪かった。

「では、ハリーさん。今日はこれで終わりにします。3日後にまた同じ時間でお待ちしています。」

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