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それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常

バー・アルカンシェル

バー・アルカンシェル

「もう私たち、別れましょう。」

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...

切り出したのは向こうからだった。
俺は、答えず、代わりにロックグラスを傾け、中の液体を口に含んだ。

星子...付き合い始めてもう5年になるか。小さな7つの星のタトゥーを入れている。たまたま出会った居酒屋で意気投合して、それからの付き合いだ。
星子とはなんとなく馬があって、全く会わない時もあったが、気が付けば元の鞘に納まっている。

だが、付き合いが長くなると、お互いの存在が当たり前になってしまう。
好きとか嫌いとかいうステージが通り過ぎ、いわゆる腐れ縁という域に入ると、男と女の刺激的な関係を望むことは難しい。
この段階のほとんどのカップルが歩むのは、変化を恐れてだらだらと関係を続けて衰退する道か、一発逆転の、いわば「死を待つなら討って出る」行動で、深手を負う道のどちらかだ。

「...私たち、このまま一緒にいたらダメになる。もう会うのはやめましょう。」

星子は両手でアルカンシェルのマッチをこねている。彼女の細い指の間でアルカンシェルの赤いマッチが踊っている。
俺はその様子を眺めながら、さっき星子が言った言葉を反芻(はんすう)していた。

もう会わない、とはどういうことだろう。町でもし出会っても、お互い他人になるということなのだろうか?

「さよなら。」

煮え切らない俺に痺れを切らして、星子は席を立とうとした。とっさに俺も立ち上がり、彼女の腕をつかんでいた。
目と目が合い、一瞬交錯する。
その時俺の口から出た言葉は、なんにせよ、二人のこれからを決めるのに十分だった。

「すまん。やっぱり無理だ。」

俺は愛用のZippoを取り出し、星子に口付けし、深く吸い込んだ。
半日ぶりのタバコが、血管を通じて全身をめぐる様子が全身で感じられた。
俺は軽いめまいを覚えながら、今立ち上がった椅子に倒れこむように座った。

俺は全身のしびれるような感じを感じながら、半日ぶりのタバコを楽しんだ。
右の手に挟まれたタバコは、もう5年の付き合いになるセブンスター。フィルターのところに銀色の7つの星が刻印されている。

「自己ベスト、には届かなかったな...」
禁煙にチャレンジしたのはこれが何回目だろうか、と考えながら、当分は星子=セブンスターとの腐れ縁が続くことをどこかで喜んでいた。

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...(只今妄想中)

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