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それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常

張り込み

張り込み

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...

俺はクライアントの依頼で、或る男を追っている。
裏の世界には裏の世界なりのネットワークがあって、金さえ出せば大抵のことは調べられる。もちろんこの世界なりのルールはあるし、ルールを守れない奴は、永久に「退場」させられるのだが...

情報屋から高い値で買った情報で、とあるアパートにその男がこもっているらしいところまでは突き止めた。
あとは写真と本人照合して、おしまい。
報告を聞いたクライアントがその後どんな行動に出ようが、ハレンチな修羅場になろうと、知ったこっちゃない。今回の依頼はここまでだ。

車の中とはいえ、張り込みはきつい。目を離すわけに行かないのでおちおちトイレにもいけない。
もっとも、俺にとっては、生理的欲求より、ニコチンの切れる方が心配だ。
たんまり買い込んでおいたタバコも、既に底をついて、現在シケモクのリユース3本目...

情報屋によると、ヤツもかなりのヤニ中らしい。ヤツがどのくらいタバコを買い込んでいるか分からないが、ヤニ中ならば、いずれ補給のために外に出ざるを得ないはずだ。
こっちはそれをただじっと待てばいいのだ。

「我慢比べ、だな。」
我慢比べ、といえば、たしか日曜日にやってた、熱湯風呂。くだらない、ヤラセだ、と言いながら良く見たっけ...最近は氷風呂に入るヤツもあるらしい。

...そういえば子供の頃近所のガキ大将と、プールでどっちが長く息を止められるか競争したな...どちらも一歩も引かず、死にかけたところを助けられた。
男なら、くだらないといわれようが、意地とプライドのため引けない時がある。
「お前のは意地じゃなく意固地って言うんだ!」あの時は、最近では珍しい熱血教師に顔が飛んでくくらいぶん殴られたっけ...

さらに8本のリユースに火をつけたところで、細く開けたドアから、男が顔を覗かせた。ヤツだ!
買出しのためか出かけるのだ。タバコが切れたに違いない。

「勝った。」
「目くそ鼻くそを笑う」と、頭に浮かんだ冷ややかな考えをかき消しながら、俺はヤツの写真を撮るためシャッターを切った。

...あの時のガキ大将、名前なんていったっけ...

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...

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