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それぞれの禁煙エレジー

探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常
TOP探偵ハリーの半分ハードボイルドな日常

事務所にて

事務所にて

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...

暇だ。
朝から誰も来ない。電話も止められちまったように鳴りもしない。
新聞ももう3回も読んだ、スミからスミまで。

しかし探偵には待つことも大切だ。調査のためには気の遠くなるような忍耐力が求められる時もある。これも鍛錬だと思えば苦にならない。

とはいえあまりにも暇だ。
買い置きしておいたタバコは全て吸いきってしまった。どうせ誰も来ないしちょっと事務所を閉めて、外に買いに行ってもいいのだが、なんだかそれも中途半端な感じがして、俺は事務所を離れられないでいた。

「タバコ...」

ふと、俺の中に、ちょっとおかしなアイデアが浮かんだ。普段は、仮に思ったとしても、本気で考えたりするようなことは無いだろうし、ましてや実行するなどありえないことだ。

おそらく時間をもてあましていたことと、ニコチン切れのせいだろう。ちょっとした悪戯心、退屈を紛らわせればよかったのだ...

俺は今朝から何度も読んだ新聞をおもむろに手に取り、1枚1枚ゆっくりとめくった。その中で一番余白が多くインクが使われていないページを探し、そのページを手で幅15cm程度に裂いた。
端から丁寧に巻いていく。太さが1cm程度のところで、余った部分を切り取った。

俺は、少しひしゃげてはいるものの、出来上がった「それ」の形に満足しながら、使い慣れたZippoのライターを手に取った。一瞬ためらいはしたものの、しかし火を「それ」の端につけ、そして反対側から吸い込んだ。

一瞬目の前が真っ暗になった。暗闇で後ろから一発やられた感じだ。少し遅れて全身に毒が回るようなしびれる感じ...

人間の体は、目や耳からの刺激を元に、無意識に身構えているのだ。例えば熱いと思って触ったやかんが冷たかったりした時や、甘いと信じて疑わないものを口に入れたら辛かった時、脳は一瞬パニックになる。

「それ」は、普段慣れ親しんだあの味からは程遠く、むしろ試すまでもなく分かりきっていたことだが、インクの味がした。

「...わかってたさ、こうなることぐらい。」
俺は気持ち悪さと後悔の念と戦いながらやっとの思いでつぶやいた。

俺の名はハリー。探偵。ハードボイルドが似合う男...

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